
マーケティング分析のあり方は、3rd Party Cookieの規制をきっかけに大きく変わりつつある。3rd Party Cookie規制の進み方は各ブラウザで対応はさまざまだが、長期的には3rd Party Cookieに依存しない仕組みへの移行が求められている。ポストCookie時代においてMMMが果たす役割について、テレシー 取締役執行役員の吉濱正太郎氏が解説する。
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株式会社テレシー
取締役執行役員 吉濱 正太郎
新卒入社後、Webデザイン制作・広告企画を経験。
2013年、米国発の3PAS企業・ゴールドスポットメディアの日本法人立ち上げ、2015年取締役兼COO就任。
2016年にM&Aを経てCARTA HOLDINGSに参画。
参画後、広告配信事業を複数推進後、テレシー事業の立ち上げを牽引。
2021年取締役に就任、現在に至る。
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3rd Party Cookieの規制で変わるマーケティング分析
従来、MTA(マルチ・タッチ・アトリビューション)は、オンライン上でのユーザー行動を精緻に追跡して、マーケティング分析を行う方法が活用されてきました。MTAは、主にデジタルマーケティング領域に特化した分析手法であり、クリックやインプレッションなどの行動ログをもとに、ユーザーがどの広告に接触し、どのチャネルがコンバージョンに貢献したかを可視化します。特に、第三者配信アドサーバー(3PAS)による広告配信ログの活用により、複数のデジタルチャネルを横断した接触履歴の把握が可能となり、チャネルごとの効果測定に大きく貢献してきました。
しかし、これまで確立してきたこうした分析手法も、3rd Party Cookieの規制によって、オンライン上のユーザー行動でさえ完全には追跡できなくなりつつあります。つまり、デジタルですら「分析しづらい時代」が到来しているのです。
さらに、MTAには明確な限界も存在します。分析対象がデジタルチャネルに限定されており、テレビCMや交通広告、店舗施策といったオフラインの活動を捉えることが難しいからです。複雑化するチャネル戦略において、マーケターには、従来の手法に頼らず、新たな分析軸を持って意思決定を行うことが求められています。
柔軟性と分析精度が高まり企業規模を問わず導入が加速
そのような状況で現在、再び注目されているのが、「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」です。MMMは、テレビ・ラジオ・屋外広告といったマス施策やオフラインチャネルを含む、すべてのマーケティング活動を統合的に評価できる分析手法です。さらに、データに直接的なユーザー識別情報がなくても、施策と売上(もしくは行動データ)の因果関係を統計的に推定できるため、ポストCookie時代にも適応可能です。
近年では、統計学の一分野であるベイズ推定を基盤としたMMMアルゴリズムがオープンソースとして公開され、クラウドコンピューティングの普及やGPUベースの演算環境の整備といったマシンパワーの進化によって、大規模データを用いた反復的な推定処理も現実的な時間コストで実行可能となっています。
こうした要素が相まって、MMMの柔軟性と分析精度は飛躍的に高まり、企業規模を問わず実用的な選択肢としての導入が加速しています。
MMMの価値は、単なる施策の振り返りではなく、未来の投資判断を導く実践的なインテリジェンスにあります。例えば、短期的な指標では効果を測りにくいブランド広告も、中長期的な影響を定量的に把握することが可能です。さらに、得られた推定値をもとにした予算配分のシミュレーションにより、成長戦略を科学的に設計することができます。
これらの出力結果は、事前データと観測データを統合した、信頼性の高い統計的な結論であり、マーケティングにおける意思決定の質そのものを大きく引き上げるものです。
誤判断を避けるために重要な統一的で構造的なデータ管理
しかし、どれほど優れた分析モデルであっても、入力されるデータの質が低ければ意味のあるアウトプットは得られません。これは「ガベージイン・ガベージアウト(GIGO)」という原則に通じます。品質の低いデータでは、いかに高度なモデルを構築しても、誤った判断につながる恐れがあります。
このリスクを回避するためには、メディアデータや顧客データを統一的な基準で構造的に管理することが欠かせません。だからこそ、データの正確性、整合性、網羅性といった品質管理の基本が確保されていることが不可欠です。
例えば、同じ指標でも部門やメディアごとに定義が異なっていたり、欠損や重複があったりすれば、分析結果に歪みが生じてしまいます。MMMのような全体最適の判断を支えるモデルでは、データの精度こそが、アウトプットの信頼性を左右する最重要要素なのです。

MMMは、かつては多くの予算や専門的なリソースを要する分析手法と見なされてきました。しかし現在では、オープンソースのツールやクラウド環境の進化により、技術的な導入障壁は着実に下がりつつあります。
これにより、従来よりも限られた投資規模のなかでも、MMMの活用を現実的な選択肢として検討できるようになってきました。
とはいえ、その効果を最大限に引き出すためには、土台となるデータの品質が極めて重要です。また、モデルを適切に構築し、その出力をビジネスの文脈で解釈・活用していくためには、マーケティングとデータサイエンスの双方に通じた専門人材やチームの存在が欠かせません。適切なデータとモデル、そしてそれを活かす人材。この3つが有機的に連携してこそ、マーケティングと経営の意思決定は力強く前進していきます。
2025年5月1日 発売、月刊「宣伝会議」2025年6月号(NO.1004)より転載